「ここで生きていきたいだけなのに」——20軒断られた私が見つけた、日本で“隣人”として認められるための鍵

「ここで生きていきたいだけなのに」——20軒断られた私が見つけた、日本で“隣人”として認められるための鍵

「ここで生きていきたいだけなのに」——20軒断られた私が見つけた、日本で“隣人”として認められるための鍵

はじめに:鳴り止まない拒絶の電話

プツン、ツーツー。

電話が切れる無機質な音を聞くのは、これで今日何度目だろう。「すみません、オーナーさんが外国籍の方はちょっと…」という言葉の後に続く沈黙は、いつも私の心をえぐった。

日本に来て5年。日本語もそれなりに話せるようになり、仕事も順調。そろそろ手狭になったアパートから、もう少し広い部屋へ引っ越そうと思い立ったのが始まりだった。

しかし、現実は残酷だった。ネットで見つけた素敵な物件に問い合わせても、国籍を伝えた途端にトーンが変わる。「日本語は大丈夫ですか?」「保証人は日本人ですか?」「文化の違いでトラブルになることが多くて…」。

20軒。これは私が断られた物件の数だ。

「私はただ、この国で普通に暮らしていきたいだけなのに」。そう思うと、自分がこの社会から否定されているような、深い孤独感に襲われた。あなたも今、同じような気持ちでスマホの画面を見つめているかもしれない。「なぜ自分だけがこんな目に」と。

でも、安心してほしい。あなたが悪いわけではない。そして、その壁は決して乗り越えられないものではないのだ。私が21軒目で出会った、ある不動産屋のオヤジさんが教えてくれたことを、あなたに伝えたい。

転機:ある老舗不動産屋のオヤジさんの言葉

もう諦めかけていた時、ふと目に入ったのが、商店街の片隅にある古びた不動産屋だった。おしゃれな広告もない、ガラス戸に手書きの物件情報が貼られただけの店。

「ごめんください」と恐る恐る戸を開けると、奥から頑固そうな初老の男性が出てきた。私は期待もせず、いつものように条件と国籍を伝えた。

オヤジさんは眼鏡の奥からじっと私を見て、こう言った。

「うちは国籍で断ることはしないよ。ただ、あんたがどんな人間か、それが見えないと大家さんも不安なんだ」

これまでの不動産屋とは違う反応に、私は驚いた。オヤジさんは続けて、あるアパートの話をしてくれた。

大家さんの「ごめんなさい」の理由

「以前、ある外国人の若いのが入ったアパートでな、ゴミ出しのルールが守られなくて大変なことになったんだ。分別されていないゴミがカラスに荒らされて、近所中に散乱してしまってな」

オヤジさんは渋い顔で続けた。

「その度にな、大家さんが近所の一軒一軒に『すみません、うちの入居者がご迷惑をおかけして』って頭を下げて回ったんだよ。大家さんはもう70過ぎのおばあちゃんだ。見てて忍びなかったよ」

私はハッとした。それまでの私は、「家賃さえ払えばいいだろう」「なぜ私を審査するんだ」という、「お客様」の意識がどこかにあった。しかし、家を借りるということは、その地域のコミュニティに「新入り」として参加するということなのだ。

大家さんが恐れているのは、私という人間そのものではなく、「言葉が通じないことで起こるかもしれないトラブル」や「ルールを知らないが故の無秩序」だったのだ。

オヤジさんは私に言った。

「日本のルールは細かくて面倒くさいだろう。でもな、それはみんなが気持ちよく暮らすための知恵なんだよ。あんたがその知恵を尊重してくれる人間だと分かれば、誰も断りゃしないさ」

その言葉で、私の心にかかっていた霧が晴れた気がした。

実践:壁を溶かした「小さな挨拶」と「青いゴミ袋」

「振る舞いが見えないのが怖い」。オヤジさんのその言葉が、私の行動を変える指針となった。審査を通すため、そして入居後に良い関係を築くために、私は「信頼」を目に見える形で示すことにした。

1. 「私はトラブルを起こしません」という宣言書

まず、入居申込書の備考欄や自己PR欄を、ただの空欄にはしなかった。つたない日本語でもいい、自分の誠意を伝える場所に変えたのだ。

具体的には、以下の3点を明記するようにした。

  • 日本の生活習慣への理解: 「日本のゴミ出しルールや騒音マナーについては、十分に理解し、尊重します」
  • コミュニケーションの意志: 「何か問題があれば、日本語で話し合いに応じます。ご近所の方とも良好な関係を築きたいです」
  • 具体的な生活スタイル: 「夜は静かに過ごすタイプです。友人を大勢呼んで騒ぐようなことはしません」

これを書くだけで、書類の向こう側にいる大家さんに「この人は話が通じそうだ」という安心感を与えることができた。

2. 入居初日の「紅茶」作戦

無事に審査が通り、引っ越しの日。私は緊張しながらも、両隣と上下の階の部屋のチャイムを鳴らした。手には、母国の有名な紅茶のティーバッグを数個入れた小さな袋を持っていた。


私:「こんにちは。今日、隣の201号室に引っ越してきました〇〇と申します。外国から来ました。日本の生活にまだ慣れていないので、ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。これは私の国の紅茶です。よかったら飲んでください」
隣人:「あら、わざわざご丁寧にありがとうございます。分からないことがあったら聞いてくださいね」

たったこれだけの会話で、相手の警戒心が解けていくのが分かった。「得体の知れない外国人」から「顔の見える隣人」に変わった瞬間だった。

3. 廊下での「お疲れ様です」が空気を変える

入居してからも、私はオヤジさんの言葉を忘れなかった。アパートの廊下や階段で住人とすれ違う時は、必ず自分から声をかけるようにした。

  • 朝なら:「おはようございます」
  • 夕方なら:「こんにちは」や「お疲れ様です」

最初は驚いた顔をされることもあったが、続けていくうちに、向こうからも「今日は暑いですね」と声をかけてくれるようになった。

4. ゴミ捨て場は「学びの場」

一番の難関だったゴミ出し。指定の有料ゴミ袋(私の地域は青色だった)を買い、複雑な分別ルールと格闘した。ある朝、プラスチックの分別に迷ってゴミ捨て場の前で立ち尽くしていると、同じアパートの年配の女性が通りかかった。

私は勇気を出して聞いてみた。


私:「すみません、このトレーは『プラ』ですか?それとも『燃えるゴミ』ですか?」
女性:「ああ、これは洗ってあれば『プラ』で大丈夫よ。えらいわね、ちゃんと分別しようとして」

その女性は、親切に教えてくれただけでなく、「えらいわね」と褒めてくれたのだ。分からないことを素直に聞く姿勢が、かえって信頼を生むのだと知った。

まとめ:日本の空の下で笑うために

21軒目の不動産屋で学んだこと。それは、日本の細かいマナーやルールは、私たちを縛り付けるための鎖ではなく、見知らぬ者同士が狭い土地で互いに快適に暮らすための「思いやり」の形だということだった。

「外国人だから」というステレオタイプは、確かに存在する。でも、それを嘆いているだけでは何も変わらない。その壁を壊すのは、あなたの完璧な日本語ではなく、あなたの誠実な「振る舞い」だ。

もし今、あなたが日本の生活に孤独を感じているなら、ぜひ今日から次の3つのことを試してみてほしい。

アパートですれ違う人に、笑顔で「こんにちは」と自分から言ってみる。ゴミ出しのルールを、「面倒な義務」から「この街の平和を守る参加チケット」だと考え直してみる。自分がこの街のどんなところが好きか、誰か(例えばコンビニの店員さんでもいい)に伝えてみる。

あなたが心を開けば、必ず誰かが応えてくれる。私はそう信じている。あなたがこの日本の空の下で、心から安心して笑える日が来ることを、心から応援している。

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著者

NIHONGO-AI

NIHONGO-AI

AIエンジニア/日本語教師

慶應文学部・台湾大学院情報工学科修了。日本語教師を経て外資大手AIエンジニアへ。5ヶ国語習得と異文化適応で培った知見を凝縮。言語x文化x教育xAIの専門性を活かし「言葉と文化を一体として学べる場」の提供に全力を注いでいます。

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